全国大会で優勝した少年にも、宿題はある。
10月17日、中国・大連の金州体育場で、第5回中国青少年サッカーリーグの男子U13決勝が行われた。
河南省の「河南実験漢森」と、大連の「大連英博大工附校」による対戦である。
ホームでの第1戦を2対0で制していた河南は、この日の第2戦を0対0で終え、初めて全国優勝を果たした。
中国サッカー協会が10月19日に掲載した記事では、学校と民間の育成組織が協力してつくったチームが、全国の頂点に立ったことを高く評価している。
中国サッカーの育成改革が成果を上げている、というわけだ。
確かに、全国優勝は立派な成績である。
しかし、私が気になったのは、その数日後に掲載された、優勝チームの主将の話だった。
馬嘉駿という、まだ13歳になっていない少年である。
彼は普段、学校が終わるとサッカーの練習に向かう。だから、ほかの生徒たちのように夜の自習に参加することができない。
宿題に取りかかるのも、遅い時間になるという。
遠征で授業を休んだときには、学校が補習をしてくれる。
本人は、そうした仕組みがあるので勉強への影響を心配していないと話している。
なるほど、学校とサッカーの両立とは、こういうことなのだろう。
大きなスタジアムで全国大会の決勝を戦う。
その一方で、学校の授業があり、宿題がある。
プロサッカー選手を目指す少年も、まだ普通の中学生なのである。
学校とクラブが、一つのチームをつくる
今回の決勝に進んだ2チームには、共通点がある。
どちらも、学校だけで運営されているチームではないのだ。
優勝した河南実験漢森は、河南省実験中学と、民間のサッカー育成組織である漢森足球倶楽部が協力してつくったチームである。
河南省実験中学は、中学校と高校を持ち、同じ教育グループには小学校もある。小学校から高校まで続く育成の仕組みに、民間クラブの専門的な指導を組み合わせているという。
一方、準優勝した大連英博大工附校には、さらに多くの組織が関わっている。
大連理工大学附属学校、民間育成クラブの大連竜巻風、そしてプロクラブの大連英博である。
ただし、取材記事によれば、プロクラブの名前は付いていても、選手たちが普段練習しているのは主に民間の育成クラブだという。
つまり、学校が教育を担い、専門的なサッカーの指導をクラブが担う。
その両方を一つのチームに組み合わせようとしているのである。
中国では、これを「体教融合」と呼んでいる。
体育と教育を一体にする、という意味だ。
もっとも、言葉だけなら簡単である。
難しいのは、実際に子どもたちの生活の中で、それをどう実現するかということだ。
学校で勉強する時間も必要だ。サッカーの練習もしたい。
試合に出るためには、遠征しなければならないこともある。
一方を優先すれば、もう一方にしわ寄せが来る。
だからこそ、今回の馬嘉駿の話が興味深いのである。
夜の自習には出られない。しかし、授業を休んだときには補習を受けられる。
学校とクラブが連携することの意味が、具体的な生活の中に表れている。
ただし、ここで一つ注意しておきたい。
学校とクラブが協力しているからといって、勉強の問題がすべて解決したわけではない。
夜遅くまで宿題をしなければならないという事実は、変わらないからだ。
サッカーの才能を、13歳で決められるのか
中国では長い間、優秀なスポーツ選手を幼い頃から選抜し、専門の体育学校などで育成する仕組みが重視されてきた。
いわゆる「挙国体制」である。
有望な子どもたちを集め、専門の指導者の下で厳しい練習を積ませる。
その中から、地方代表、国家代表へと進む選手を育てる。
中国が五輪などの国際大会で数多くのメダルを獲得してきた背景には、こうした育成制度がある。
しかし、その仕組みには問題もあった。
選抜から外れた子どもたちは、どうなるのかということだ。
特にサッカーでは、少年時代に将来の可能性を見極めることは容易ではない。
小学生の頃に目立っていた選手が、中学生になっても同じように活躍できるとは限らない。
逆に、小学生の頃にはそれほど目立たなかった子どもが、身体の成長や練習によって力を伸ばすこともある。
成長の早さには個人差がある。
それなのに、早い段階で専門の育成組織に進むか、サッカーを諦めるかという選択を迫られたら、どうだろう。
将来の可能性が十分に分からないうちに、進路が狭まってしまうことにもなりかねない。
中国のサッカー育成では、かつて「12歳で引退」という言葉が問題として語られることもあった。
小学校を卒業したあと、競技を続けられる環境や進学先が見つからず、サッカーをやめてしまう。
プロ選手になれなかったからではない。
まだプロ選手になるかどうかも分からない年齢で、サッカーを続ける道が途切れてしまうのである。
今回の中国青少年サッカーリーグは、そうした問題にも対応しようとしている。
プロクラブの育成組織だけでなく、学校のチームや民間の育成クラブも、同じ全国大会で競争できるようになった。
優秀な選手を育てる道が、一つだけではなくなってきたというわけだ。
これは、中国サッカーにとって重要な変化だと思う。
2007年、金志楊監督が語ったこと
中国のサッカー育成について考えていると、北京で取材した金志楊監督のことを思い出す。
2007年10月31日、私はスポーツナビに「中国が見据える『五輪後』というテーマ」という記事を書いた。
当時、北京理工大学のサッカー部は、中国のプロリーグに参戦していた。
大学のサッカー部がプロチームと戦うという、当時の中国では珍しい取り組みだった。
その監督を務めていたのが、金志楊である。
中国サッカーの指導者として知られていた人物だが、彼が大学で指導するようになった背景には、中国のスポーツ育成制度を変えようという動きがあった。
金監督は、私にこう語っていた。
「スポーツを学校の手に戻したい」
今、読み返しても、印象に残る言葉である。
当時、中国の競技スポーツでは、国家が選手を選び、専門の組織で育てることが中心だった。
それに対して、金監督が目指していたのは、学校教育の中にスポーツを根付かせることだった。
大学を頂点として、小学校から高校まで、教育を受けながら競技を続けられるようにする。
競技で優れた能力を持つ子どもが、必ずしも専門の体育学校だけに進む必要はない。
そのような育成の仕組みをつくろうとしていたのである。
今回、河南省実験中学と民間クラブの共同チームが全国優勝したというニュースを読んで、私はその言葉を思い出した。
もちろん、北京理工大学の取り組みが、そのまま河南省の現在の育成制度につながったというわけではない。
両者の間に直接の関係があることも確認できていない。
ただ、学校の中で競技を続ける道を広げようという考え方は、共通している。
2007年に金監督が語っていた問題が、今度は13歳の少年たちの全国大会で、具体的な形になっているようにも見えるのである。
週末に試合をするという改革
今年の中国青少年サッカーリーグでは、試合の開催方法にも変化があった。
U13、U15、U17の3つの年代で、地域ごとのリーグ戦が本格的に導入されたのである。
これまでの中国の青少年大会では、ある時期に各地のチームを一つの会場に集め、短期間で試合を行う方式が多かった。
場合によっては、1日おきに試合をしなければならない。
選手は学校を長く休むことになり、試合と試合の間に十分な練習時間を確保することも難しい。
そこで今年は、地域をいくつかに分け、週末を利用してホーム・アンド・アウェー方式で試合を行うようにした。
4月から6月にかけて、3つの年代で合計57チームが参加し、157試合が行われたという。
もちろん、全国のすべての青少年チームが、この地域リーグに参加したわけではない。
移動距離や参加条件などの制約があり、現段階では一部のチームに限られている。
それでも、週末に試合を行うという考え方には意味がある。
平日は学校へ行き、放課後に練習する。
週末には試合を行い、翌週は再び学校生活に戻る。
その繰り返しで競技力を高めていく。
サッカーをするために学校生活から長期間離れるのではなく、学校生活の中にサッカーの試合を組み込もうというわけだ。
ただし、これも簡単なことではない。
中国は広い。
同じ地域リーグといっても、移動に時間がかかる場合がある。週末が遠征で埋まれば、家庭で過ごす時間や勉強の時間は減るかもしれない。
競技のための移動費や宿泊費も必要になる。
主催者は一定の補助を行っているというが、それですべての負担をまかなえるわけではないだろう。
試合の開催方法を変えるだけで、勉強とサッカーが自然に両立できるようになるわけではないのである。
親が期待する将来は、一つではない
今回の全国大会では、選手の家族の声も紹介されている。
決勝第1戦で2得点を挙げた河南実験漢森の朱治里は、早くからサッカーの才能を評価されてきた少年だ。
大連で行われた決勝には、父親と祖父も応援に駆けつけた。
家族は、今後、年代別の中国代表に選ばれることを期待しているという。
順調に成長できるのであれば、プロサッカー選手への道を選んでほしい。
そんな希望を持っているそうだ。
親にとっては、子どもの才能を伸ばしてやりたいと思うのも自然なことだろう。
一方、同じ優勝チームの保護者でも、考え方が異なる人がいる。
補欠選手の保護者は、プロ選手になる道には不確実性が大きく、将来は勉強を続ける方が現実的かもしれないと話している。
同じチームで全国優勝を果たしても、親たちが考える子どもの将来は一つではないのである。
実に興味深い。
プロ選手になることを目指してもよい。
大学へ進むために勉強を続けてもよい。
競技を続けながら、将来の進路を考えてもよい。
本来、13歳の子どもにとっては、どれも残されていてほしい選択肢だろう。
中国では、青少年サッカーの競技実績を進学に活用できる仕組みも整備されつつある。
中国サッカー協会が掲載した取材記事によると、2025年末までに、中国青少年サッカーリーグで得た運動員等級証書を利用して、体育分野の特別な大学入学選抜を受験した選手が593人いたという。
競技での実績を、進学にも生かせるようにする試みである。
ただし、593人というのは受験した人数であり、全員が大学に合格したという意味ではない。
まして、全国大会で優勝した子どもたちの進路が、すべて保障されているわけでもない。
それでも、競技を続けることが、進学の可能性を閉ざすばかりではなく、別の道を開く場合もある。
そうした仕組みがあることは、子どもや親がサッカーを続けるかどうか考えるうえで、大きな意味を持つのではないだろうか。
学校の名前があれば、安心なのか
もっとも、今回の優勝チームが学校を母体にしているからといって、学業と競技の両立が十分に保障されているとは限らない。
ここは、慎重に見ておきたい。
例えば、優秀な選手を集めた学校では、競技成績が学校の評価にもつながる。
全国大会で優勝すれば、学校の知名度は上がるし、優秀な選手がさらに集まるかもしれない。
それ自体は悪いことではない。
ただ、サッカーで勝つことが学校にとって重要になりすぎれば、今度は授業や勉強が後回しにされる可能性もある。
学校が運営に関わっていることと、教育が十分に行われていることは、同じではないのである。
では、何を確認すればよいのだろうか。
一つは、練習や遠征によって失った授業時間を、どのように補っているかということだ。
もう一つは、競技を続けることが難しくなったとき、普通の進学に戻れるかどうかである。
そして、子ども本人が、サッカーを続けたいのか、別の道へ進みたいのかを選べるかどうか。
私は、ここが最も大切だと思う。
中国政府は2024年に公表した青少年サッカー改革の方針で、学校から大学までつながる進学の仕組みを整備し、一定の条件の下でプロクラブの育成組織に入った高校生や大学生も学籍を維持できるようにする方針を示している。
政策としては、競技と学業を両立させる方向へ進もうとしているわけだ。
しかし、方針が示されたことと、すべての地域で制度が機能していることは別である。
河南省や大連のように、学校とクラブが協力できる地域もあれば、十分な指導者や施設を確保できない地域もあるだろう。
学校の授業と練習の調整を、家庭の努力だけに頼っているケースもあるかもしれない。
そうした違いを見なければ、中国のサッカー育成がどれほど変わったかは判断できない。
15歳、17歳になったとき
さらに、今回の大会には、もう一つ気になる点がある。
年代が上がるにつれて、活躍するチームの顔ぶれが変わってくることだ。
U13では、学校と民間育成クラブの共同チームが全国優勝した。
しかし、U15では山東泰山のプロクラブ育成組織が優勝し、U17でも浙江、山東泰山、恒大足球学校など、専門的な育成組織のチームが上位を占めている。
年齢が上がるにつれ、プロクラブの育成組織が競技の上位で存在感を増しているのである。
もちろん、これだけで学校のサッカーに限界があると判断することはできない。
参加チームの構成も、選手の育成条件も違うからだ。
ただ、13歳のときには学校で競技を続けられても、15歳、17歳になったとき、同じような環境で高い水準のサッカーを続けられるのだろうか。
これは、考えておく必要がある。
プロ選手を本格的に目指すのであれば、より高度な練習環境が必要になる場合もある。
そのとき、学校に通いながら練習を続けられるのか。
プロクラブの育成組織へ進むとしても、学業を継続できるのか。
そして、途中でサッカー選手への道を諦めたとき、別の進路を選べるのか。
今回のU13優勝は、こうした問題に答えを出したわけではない。
むしろ、13歳の時点で開かれた選択肢を、その後も維持できるかどうかが、これからの課題になるのだと思う。
優勝のあと、少年たちは学校へ戻る
10月17日、大連の金州体育場。
全国優勝を決めた河南実験漢森の選手たちは、表彰台で優勝杯を掲げた。
大連のチームにとっては、悔しい結果だっただろう。
ただ、どちらのチームの選手も、まだ13歳前後の少年である。
今回の大会で目立った選手が、そのままプロになれるとは限らない。
逆に、この大会では出場機会が少なかった選手が、数年後に力を伸ばすかもしれない。
今は、まだ何も決まっていないのである。
全国優勝した馬嘉駿は、将来、プロサッカー選手になりたいと話している。
その夢は、大切にしてほしいと思う。
一方で、仮に数年後、サッカーとは違う道へ進みたいと考えたとしても、その選択ができる環境であってほしい。
学校で学んできたことが、そのとき役立つはずだからだ。
2007年、金志楊監督は、スポーツを学校の手に戻したいと語っていた。
今回の河南実験漢森の優勝は、その言葉を思い出させる出来事だった。
ただ、中国のサッカー育成が本当に変わったかどうかは、全国大会の優勝チームだけを見ても分からない。
その選手たちが、数年後、どんな進路を選んでいるのか。
サッカーを続けている人もいれば、大学で別の勉強をしている人もいるだろう。
そのとき、どちらの道を選んだとしても、少年時代にサッカーを続けてきたことが、無駄にならない。
そんな仕組みができているかどうかである。
全国大会で優勝しても、少年たちには翌日からの生活がある。
学校へ行き、授業を受け、練習をする。
そして、夜には宿題をする。
その当たり前の生活を続けながら、どこまで高いレベルのサッカーに挑戦できるのか。
中国サッカーの育成改革を評価するのであれば、代表チームの成績だけでなく、そんな子どもたちの日常にも目を向ける必要があるのだと思う。
<了>
参考資料
- 中国サッカー協会掲載・足球報「中青賽2026、改革と新しい方向」(2026年10月19日・中国語)
- 中国サッカー協会「第5回中国青少年サッカーリーグ、河南実験漢森がU13優勝」(2026年10月18日・中国語)
- 中国サッカー協会掲載・懶熊体育「13歳の少年たちがプロのスタジアムで全国決勝を戦う」(2026年10月22日・中国語)
- 中国サッカー協会掲載・澎湃新聞「U13中青賽の5年間――子どもたちに複数の選択肢を」(2026年10月22日・中国語)
- 中国国家体育総局ほか「中国青少年サッカー改革発展実施意見」(2024年2月23日・中国語)
筆者の過去記事
※本稿は2026年10月30日時点の公開資料に基づく。2026年の青少年大会に関する選手・保護者の発言は、中国サッカー協会に掲載された各媒体の取材記事によるもので、筆者自身が今回現地で取材したものではない。学校と育成クラブの連携や進学制度の整備は確認できるが、選手全員の学業継続や進路が保障されていることを示すものではない。
