序論
中国スーパーリーグ(CSL)は2010年代半ば、欧州や南米のスター選手を次々と獲得し、一気に世界の注目を浴びるようになった。たとえば、2017年にブラジル人のオスカルをチェルシーから上海上港へ移籍させた際には、アジア史上最高額の移籍金を記録した。大型補強によりリーグは華やかになり、観客動員も急増した。2016年には平均観客数が24,000人を超え、2019年には世界で5番目に多い観客数を誇るリーグへと成長した。
だが、この盛り上がりの陰で「過度な外国人依存」が問題視され始める。高額年俸を受け取る外国人選手が試合の中心となることで、中国人選手は出場機会を奪われ、成長の場を失うという批判が出てきた。また、クラブの経営面にも不安が生じ、持続可能な発展が危ぶまれる状況となった。本稿では、CSLにおける外国人選手の過度な依存が国内選手の育成とリーグの持続的発展に及ぼす影響を、経済的・文化的・社会学的視点から分析する。
経済的側面
外国人選手への投資とクラブ財政
CSLのクラブは近年、欧州トップリーグ並みの巨額資金を外国人選手獲得に投入してきた。たとえば、上海上港はオスカル獲得に約6,000万ポンド(約82百万ドル)を費やし、上海申花はカルロス・テベスに週給65万ポンドという破格の年俸を支払った。こうした投資競争の結果、2017年冬の移籍市場におけるCSLのクラブ合計支出額は、欧州のプレミアリーグを上回る勢いを見せた。
しかし、これほどの支出にもかかわらず、クラブの収益基盤は脆弱だった。チケット収入やグッズ収入は総収入のわずか13%程度で、多くのクラブはスポンサーや親会社の資金注入に依存していた。結果として、一部のクラブは財政破綻の危機に陥った。2020年シーズンのCSL覇者・江蘇蘇寧は、親会社の経営難により翌年初頭に突如クラブ解散を発表。また、最多優勝を誇る広州恒大(現・広州足球倶楽部)も、親会社の財務危機により主力選手が流出し、2023年にはプロリーグ参戦ライセンスを剥奪される事態に陥った。
放映権収入とスポンサーの影響
外国人スターの参入により、CSLの放映権収入は急拡大した。2016年にはCSM社が2016~2020年の5年契約で80億元(約12.5億ドル)を支払い、さらに契約額は110億元に増額された。しかし、この商業的成功も脆弱な基盤の上に成り立っており、クラブの経営が安定しなければ長続きしないことが明らかになった。
中国サッカー協会の財政政策
こうしたバブル的な支出傾向に対し、中国サッカー協会(CFA)は2017年に移籍金への課税措置を導入し、4500万元を超える移籍金には同額を育成基金として納付させる方針を打ち出した。また、2020年にはサラリーキャップを導入し、クラブの年間総人件費や外国人選手の年俸に上限を設定した。これにより、無秩序な外国人獲得競争には一定の歯止めがかかった。
文化的側面
ファンの反応とリーグの人気
外国人スターの大量流入は当初、国内ファンに熱狂的に受け入れられた。しかし、やがて「高額サラリー目当ての出稼ぎ先」としての側面が強調されるようになった。たとえば、上海申花に加入したテベスは巨額の年俸を受け取りながら16試合でわずか4得点と期待外れに終わり、体重超過まで指摘された。さらに、「中国のサッカーは50年遅れている」と発言し、国内メディアやファンの失望を招いた。
国内選手のアイデンティティとナショナルチームへの影響
外国人選手が得点を量産する一方で、中国人選手は脇役に追いやられ、エースとして活躍する機会が減少した。この傾向は中国代表チームの得点力不足にも影響を与え、結果的にW杯予選突破の可能性を低下させた。
社会学的側面
育成システムへの影響
外国人選手の依存度が高いことで、国内の育成システムの発展が遅れてきた。クラブは即戦力の外国人を獲得すれば済むため、ユース選手の育成に注力するインセンティブが薄れていた。この問題を解決するため、CFAは2017年に23歳以下の国内選手(U-23)の出場義務を導入。クラブが若手選手を積極的に起用する仕組みを整えたが、一部クラブでは形だけの起用にとどまるケースもあった。
若手選手のキャリアと競争力
国内リーグで試合経験を積めないため、有望な若手は海外リーグに活路を見出そうとするが、経験不足のために競争に勝てず、定着できないケースが多かった。これは、外国人選手に頼りすぎることによる負の連鎖の典型例といえる。
結論
CSLの外国人依存は短期的にはリーグの魅力を高めたが、国内選手の成長を妨げ、クラブ経営の不安定化を招いた。中国サッカー協会は外国人枠の制限やサラリーキャップ導入などの規制を進めているが、まだ課題は多い。リーグの持続的発展には、外国人選手の活用を適度に抑えつつ、国内選手の育成を促進するバランスが求められる。
参考文献(References)
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