スポーツの国際化:中国人アスリートの海外進出と外国人選手の受け入れの実態

サッカー

はじめに

中国スポーツ界の国際化は近年、かつてない速度で進展している。かつては外国人選手の受け入れに消極的だった中国も、2018年頃から方針を大きく転換し、競技力向上を目的とした積極的な帰化政策を推進した。その結果、現在では8競技42人もの外国出身選手が中国代表として活動するまでに至っている。

特にサッカーでは、2019年から始まった帰化政策により、ブラジル出身選手を中心に11人が中国国籍を取得し、そのうち6人が代表チームに招集された。一方で、2022年の北京冬季五輪では、アメリカ育ちのフリースタイルスキー選手アイリーン・グーが金メダルを獲得して称賛される一方、同じく米国育ちのフィギュアスケート選手朱易がミスを連発した際には、競技結果のみならず中国語能力まで批判されるなど、帰化選手に対する社会の反応は成功と失敗で大きく分かれる傾向が見られた。

本稿では、中国スポーツの国際化の現状と課題を概観し、今後の展望について考察する。


中国スポーツの国際化戦略と政策変遷

中国のスポーツ政策は、競技力の向上と国家の威信の確立を目的に、時代ごとに変遷を遂げてきた。かつて中国はナショナルアイデンティティを重視し、自国出身選手のみで国際舞台に臨むことを基本方針としていた。しかし、グローバル化の波が押し寄せる中、他のアジア諸国が積極的に国際的なスポーツ展開を進めるのを受け、中国も戦略転換を余儀なくされた。

2018年は、この転換を象徴する年となった。特にサッカーでは、中国サッカー協会と中国スーパーリーグの有力クラブ、広州恒大(現・広州FC)が主導し、外国籍選手の帰化を本格化させた。これは、当時の代表監督マルチェロ・リッピの支持を得た戦略であり、短期間で競技力を引き上げる現実的な施策として推進された。

こうした動きは、中国独自のものではない。たとえば日本では2018年にスポーツ庁、経済産業省、日本貿易振興機構、日本スポーツ振興センターが連携し、スポーツ産業の国際展開を支援する施策を打ち出した。中国の場合、より直接的に競技力向上に焦点を当てた点が特徴的である。

さらに、習近平国家主席が掲げる「スポーツ強国構想」の下、2022年北京冬季五輪や2023年アジア競技大会など、国際大会での成功が国家の威信と結び付けられるようになった。そのため、中国は従来の枠組みを超えた施策を講じ、国際競争力の強化を図っている。


中国人アスリートの海外進出

中国人アスリートの海外挑戦は、姚明(ヤオ・ミン)のNBA入りが象徴的な出来事として語られる。2002年にヒューストン・ロケッツにドラフト1位で指名された姚明は、中国バスケットボール界の先駆者としてだけでなく、中国スポーツのグローバル化を促進する存在となった。

サッカーでは、武磊(ウー・レイ)がスペイン1部リーグのエスパニョールに所属し、中国人選手として初めてスペインリーグでゴールを決めるなど、一定の成功を収めた。彼の挑戦は、中国サッカーが世界基準に適応していく上で重要な事例となっている。

こうした海外進出は単なる個人のキャリア形成にとどまらず、国内スポーツの発展にも寄与している。たとえば姚明は引退後、中国バスケットボール協会の会長としてリーグ改革や若手育成に尽力しており、海外経験を国内に還流させる形でスポーツ発展に貢献している。

一方で、言語や文化の壁、競争の厳しさ、中国国内からのプレッシャーといった障壁が存在し、多くのアスリートが適応に苦労するのも事実だ。特に中国では、アスリートが単なる個人ではなく「国家の代表」として見られる傾向が強いため、結果を求められるプレッシャーは他国の選手以上に大きい。


外国人選手の中国代表への受け入れ

中国における外国人選手の帰化は、サッカーを筆頭に急速に進んでいる。2019年には、イングランド出身のニコ・イェナリス(現・李可)やノルウェー出身のヨン・ホウ・サテルが中国代表に加わり、その後もブラジル出身のエウケソンなど、多くの選手が帰化している。

これらの帰化選手のうち、中国にルーツを持つ選手もいれば、FIFAの規定する5年間の滞在要件を満たして帰化した選手もいる。しかし、彼ら全員が代表で活躍しているわけではなく、代表定着には言語や文化の壁、適応の問題が大きく影響している。

また、サッカー以外の競技でも帰化が進み、特にアイスホッケーでは北米出身の選手が多数中国代表に加わっている。これは、2022年北京冬季五輪に向けた戦略として実施されたが、結果的に中国スポーツ界に新たな課題をもたらしている。


今後の展望

中国スポーツの国際化は今後も進展していくと考えられるが、持続可能な戦略が求められる。帰化政策については、短期的な成果を追求するのではなく、文化的融合や長期的なコミットメントを重視する方向へシフトする必要がある。

また、中国人選手の海外進出も今後さらに増加することが予想される。姚明や武磊のような先駆者の成功は、若い世代にとって大きな指針となっている。彼らが海外で得た経験を国内に還流させることで、中国スポーツ全体の競技力向上が期待される。

さらに、スポーツの国際化は競技面だけでなく、ビジネス面でも進んでいる。中国は今後、スポーツ産業の国際展開を加速させ、経済的な側面からもスポーツの発展を図ることが求められるだろう。


中国スポーツの国際化は、単なる競技力向上の問題ではなく、ナショナルアイデンティティや経済戦略とも密接に関連している。今後、中国はグローバル化の波の中で、いかに自国の強みを生かしながら国際競争力を高めるかが問われることになる。

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