← 歴史的アーカイブ一覧へ「スポーツ選手に自由を」
中国スポーツ界で大きな話題となっているのがこのテーマだ。
中国スポーツで成長著しい競技のひとつ、女子テニスでエース鄭潔とともに中国を引っ張っている李娜が先日、中国のスポーツ制度に対して、「物申した」ことで話題となっている。彼女は「もし私が自由に競技を選べたなら、テニスは絶対選ばなかった」「中国のスポーツ選手は“家長”のもとで管理され、心理的に大きなストレスを受ける。こんなスポーツ制度は選手にとって決してよくはない」
他の競技に比べて、海外遠征が多いテニスの選手として、世界各国を回り、各地のプロ選手と接してきた彼女だからこそ言えた言葉だろう。彼女が“不本意ながら”選んだテニスの世界なればこそ、中国スポーツが他国とどれだけ異なるかを身をもって知ることができた、というのも因果な話だ。
中国のスポーツ選手には確かに「自由と権利」がない。スポーツ学校を底辺とするピラミッドだけが現実的にはスポーツ選手になるためのルートであり、その中では練習内容、遠征スケジュール、怪我をしたときの対応など、全て「上に聞く」ことが求められる、きわめて官僚的な制度だ。ただ、その分、国家は「口も出すが金も出す」というわけで、国家代表レベルの選手になれば、衣食住も心配なく、全てのスケジュールを当局が決めてくれるため、競技のみに専念できるという抜群の環境が生まれる。中国スポーツの強さは、その良し悪しの二面性を持った「超管理制度」の賜物なのだ。
だが、これによって、多くの「悲劇」が生まれる。たとえば、日本では当たり前の「メジャーへの挑戦」。だが、中国のスポーツ選手は自らの意思だけで海外のプロチームに移籍することはできない。バスケットボールはその典型だが、NBAに移籍することはそう簡単ではなく、王ジヂのように、NBA移籍後、中国国家体育総局と金銭面でもめて、「出入り禁止」となった例もある。また飛び込みの田亮はその甘いマスクが受けて、テレビやCMに“ひっぱりだこ”となったが、それが「商業活動」と当局からにらまれ、結局、その後国家代表から「干され」た。前回の北京五輪は金メダル確実の力を持ちながら、出場ができず、結局引退に追い込まれた。こういう例をあげれば、まったくきりがない。
そういえば、北京五輪110mハードルで「悲劇の退場」を演じた劉翔は「聞き分けのいい」選手だった。練習メニューから食事、医療面にわたるまで「チーム劉翔」が結成され、24時間全ての生活が完全管理された。だが、それに対し、劉翔はまったく文句ひとついわず、全てしたがって、そして「あの日」の悲劇を迎えた。もっとも大切な瞬間に、走れない状態にしてしまったのは、他でもない「チーム劉翔」の責任なのだが、最後の最後で、劉翔は全ての非難を自分自身に受け止め、競技場から去っていった。「自由と権利」のないスポーツ選手も、最終的なパフォーマンスと結果には責任を負わなければならない・・・そういう意味では、劉翔もまた「スポーツ選手の自由・権利」問題の犠牲となった一人といえよう。
去年、中国スポーツ界は「アスリートの生活保障」そして「アスリートの教養」といった問題が話題となった。北京五輪が終わり、国を挙げた「メダル獲得合戦」が終了した今、今度は「アスリートの自由・権利」に関心が移ったといえよう。だが、この問題は中国スポーツの根本にも関わる非常に重大なものであり、なかなか解決が難しいものでもある。
冒頭の李娜の発言に対し、中国のスポーツファンも辛らつな批判をしている。「俺たちの金で育ててもらったくせに自由だ、権利だなんて言うな」
無茶苦茶といえばそうだが、国家スポーツの一員として、莫大な予算をもって育てられてきた彼らが、いつしか、高級外車に乗り、高級マンションに住み、一般人とかけ離れた生活をするようになれば、そういう感情的な思いを抱くのも、あながち批判はできないのである。だが、それでも「五輪後」の中国スポーツがよりよい方向に発展していくには、アスリートがロボットのように動かされるのではなく、自分自身で考え、最高のモチベーションを作り上げるだけの能力を持つ必要があり、それこそがいわゆる「アスリートの自由・人権」なのだろう。これは去年大きな話題となった「アスリートの教養」問題と通ずるところがあるような気もする。
「ポスト五輪」の重要なテーマとして、今後もこのあたりも追いかけていきたいと思う。
タグ:
選手
劉翔
中国
中国スポーツ
スポーツ選手
HISTORICAL ARCHIVE / 2009-04
「アスリートに自由を」中国テニス女王が訴え
過去掲載記事をアーカイブから復元したものです。本文は当時の表記を維持しています。
出典・公開日時・復元状況
- 原掲載先
- スポーツナビ+/スポーツCHINA〜体育中国
- 筆者(原ページ署名)
- asa8043
- 当時の公開日時
- 2009/04/23 22:43 GMT+9
- 公開日時の根拠
- dc:dateとページ内日付・投稿時刻を照合一致
- 復元元URL
- http://www.plus-blog.sportsnavi.com:80/asa8043/article/507
- 保存日時(UTC)
- 2009-04-30T06:57:11Z
- Internet Archive
- 保存ページを開く ↗
- 本文の復元状況
- 保存本文を抽出し原HTMLと照合済み。保存前の欠落や編集履歴は未確認。
- 写真の復元状況
- 抽出した本文に画像参照はありません。
抽出した本文に画像参照はありません。
← 歴史的アーカイブ一覧へ