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HISTORICAL ARCHIVE / 2007-02

高まる”素質教育”の必要性、中国五輪代表「乱闘問題」

過去掲載記事をアーカイブから復元したものです。本文は当時の表記を維持しています。
出典・公開日時・復元状況
原掲載先
スポーツナビ+/スポーツCHINA〜体育中国
筆者(原ページ署名)
朝倉浩之
当時の公開日時
2007/02/11 22:21(タイムゾーン表示なし)
公開日時の根拠
ページ本文の日付・投稿時刻を確認。タイムゾーン表示なし
復元元URL
http://www.plus-blog.sportsnavi.com:80/asa8043/article/37
保存日時(UTC)
2007-02-13T00:08:29Z
Internet Archive
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当時の公開日時:2007/02/11 22:21(タイムゾーン表示なし) / 筆者:朝倉浩之

%color(black){}7日に起こった中国国家オリンピックチーム(U21ユース代表)の乱闘事件について、メディアの報道を中心にお伝えした記事に関して、引き続き、多くの反響を頂いた。コメントの中でtibetanさんがおっしゃるように、今回の事件は決して許されるべきでないものの、「報道も世論も総じて、五輪代表に対し、徹底的に批判する姿勢を見せている」ということに私自身も、ある意味の安堵感を感じている。 あれから、数人の中国人の体育関係者、友人(スポーツに全く関心のない人も含めて)らと、この点について議論したが、総じて言うのは「今回の乱闘事件を断固として批判する」「彼らは人間的に成長していない」「彼らは我々の代表チームでも何でもない。彼らに代表されたくない」果ては「中国のサッカーはもうだめだ」などという絶望論まで聞こえてくる始末である。つまり、少なくとも、私の交友範囲においては、今回の事件に対して、極めて厳しい態度を取っているということだ。(もちろん、これが全てというわけではない)。 ただ、新聞報道に関して言えば、11日付の朝刊で、例の五輪チームと乱闘事件を起こしたイングランド2部のクイーンズパークレンジャースが9日、またしても試合中に乱闘事件を起こしたことを大きく伝え、暗に、クイーンズパークが「荒くれ者」であるイメージを強調しようとしているようにも思える。ただ、実際にこのチームは問題の多いチームなのかもしれないが・・・。この問題の取り扱われ方は、今後の中国スポーツに行く末にも関わってくることだと思う。今後も積極的に追って行きたい。 さて、今回の事件に関して、多くの人たちは五輪チームの選手たちの「素質」に問題があると見ている。この「素質」と言う言葉は、日本語とは全く意味が異なり、どちらかといえば、「人格・人間性」などという意味に近い言葉である。今の中国の教育面における合言葉がこの「素質教育」であり、大学入試一辺倒ではなく、子供たち一人ひとりの人間性を養っていこうというのが、目標となっている。 そして、おりしも、今年のスポーツ界のテーマとして、挙げられているのが、このスポーツ選手の「素質」なのである。これは、北京青年報、北京新報、新京報など北京の新聞各紙が年始のスポーツ特集記事で、この問題を取り上げ、今年の大きな課題の一つに上げていた。その矢先の今回の事件・・というわけである。 中国のスポーツ界は日本と大きく異なる。私は去年、北京市内の朝陽区体育学校というスポーツ専門校に取材に行ったことがあり、機会があれば、中国のスポーツ選手育成について、レポートを書きたいと思うが、スポーツ選手が極めて専門化しており、5,6歳の低年齢児童の段階から、身体能力の優れた子供を選び出し、オリンピックを頂点としたピラミッドに組み込み、国費で育成するという形を取っている。学校体育が基本となり、アスリートと一般人の垣根がやや低い日本とは異なっている。 そのため、彼らは一度、スポーツ専門校に入れば、一般の「大学を頂点とする学歴社会」とは無縁のところで、スポーツ三昧の青年期を送る。当然、同年代の生徒らに比べると学力では差が出てくる。そして、優秀な成績を挙げれば、地区、省の国家チームに選抜され、その中から国家代表チームに選ばれる。彼らは北京に集められ、合宿生活を送りながら、国家から衣食住を保障されつつ、最高レベルの指導を受けながら、トレーニングを重ねる。そして、その中から、晴れのオリンピック選手が選ばれるというわけである。 ところが、スポーツ選手は一般に、遅くとも30代半ばまでには、競技者としてのピークを終える。一定年齢になれば、彼らは引退せざるを得ない。問題はその後・・である。優秀な選手やマスコミに取り上げられた選手は、その後、指導者やその他の道も開かれている。また場合によっては、体育関係の官僚として、地方、または中央で役人としての仕事を行う人もいる。だが、そういった道が開けるのは、ごくひと握り。しかも一部の人気競技に限られている。それ以外の選手は、「第2の人生」を歩まざるを得ない。だが、彼らは一般の学歴体系とは別のところで青年時代を送ってきた。そこから突如、今の厳しい学歴社会に放り込まれれば、どうなるかは想像がつくだろう。 私はあるアスリートを知っている。彼は、以前、世界選手権でも優勝したことのある優秀な選手だった。だが、引退後、何らかの事情があったのだろう。指導者への道は開けず、結局、社会に放り出された。そして今は、ある食堂でひと月1000元足らず(15000円ほど)の給料で、掃除の仕事をやっている。かつての金メダリストがこの状況である。惨めと言うほかないだろう。 このような悲劇が起きないよう、現在、中国のスポーツ界は引退後の「セカンドライフ」に向けた「素質教育」を進めようとしている。たとえば、先ほどふれた体育学校でも、一定レベルの教科教育を施し、いわゆる「重点学校」と言われる進学校から教員を招いて、かなりハイレベルな学校教育を行うなどの動きが近年出ている。そうなれば、例え途中で脱落せざるを得ないことがあっても、学歴社会に「復帰」できるというわけだ。 先月末、23歳の若さで引退を表明した羅雪娟(アテネ五輪の平泳ぎ金メダリスト)は、北京大学で国際関係学を学ぶことになっている。一昔前なら、指導者か体育関係の官僚くらいしかアスリートの進路はなかったが、第2の人生をスポーツだけに頼らない生き方をしようとする一流アスリートが増えている。この動きも「素質教育」推進の流れだろう。 そしてこのスポーツ選手の「素質向上」の中には、やはり、スポーツ選手の人間性の低さに対する批判とその改善というのも含まれている。よく言えば「純粋」だが、悪く言えば「世間知らず」な彼らは、うまくいけば英雄として尊敬を受けるが、そうでなければ、“一般の”中国人から逆に軽蔑の対象となる・・・これが今の中国スポーツの現状である。 今回の「乱闘事件」はおりしも、この「素質問題」が浮上している矢先の出来事であり、だからこそ、スポーツ界全体に大きなショックを与えているのだろう。それだけに今回の問題をサッカー界のものだけに留めず、中国スポーツ界全体の課題として重く受け止めてほしいと願っている。2008年、オリンピック開催国の大役を果たすのだから当然の課題である。
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