← 歴史的アーカイブ一覧へ一人の男が前の男にジャンピングパンチ。それを合図とするかのように、22人の男たちが一斉に取っ組み合いを始める。脇からは、次から次に別の男が加勢し、殴り合いはどんどんエスカレートしてく・・・。
これは、どこかの喧嘩の様子を描写したものではない。サッカーの試合、しかも国際親善試合。加えて、その一方が、中国13億の期待を一身に受けた「U21ユース代表チーム」。そして彼らは、来年北京で行われるオリンピックに国の威信をかけて戦うことを嘱望されたイレブンたちなのである・・・。
事件が起きたのは7日、英ロンドンで行われた親善試合。これは、中国U21代表がこのチームになって、初めて行ったヨーロッパ遠征である。相手は、地元チームのクイーンズパークレンジャーズ。クイーンズパークが前半1点を先制したあと、後半すぐに中国が同点に追いつく。すかさずクイーンズが勝ち越すというゲーム展開だった。
1-2で残り10数分というときのことだった。突然、ピッチの中央で、殴り合いが始まり、それがいつのまにか、両軍の選手が入り乱れての乱闘、さらには控えの選手、コーチ陣までが飛び出しての「大戦争」となってしまったのである。騒ぎが収まったのは1分後。ここで主審が試合の没収を宣言した。
後に残ったのは、けが人だった。途中出場した鄭濤が最も大きな被害を受け、殴られたときに歯が一本折れたのを始め、下あごが完全に変形。5分ほどこん睡状態に陥るという重傷を負った。さらにキーパーの王大雷も負傷した。(事件の過程は中国体育報より)
実はこの事件には伏線がある。これが初めてではないのだ。
この前日、2月6日、英プレミアリーグのチェルシーの下部チームと対戦した際、すでに乱闘事件が発生していた。しかも、この遠征中、その前にも、U21代表は乱闘騒ぎを起こしており、今回が3度目というわけだ。
今、中国のスポーツメディアは、この中国を背負って戦うべき五輪代表の話題で持ちきりである。8日付けの各紙は「恥ずべき失態」などの見出しを掲げ、彼らの行動に批判を加えた。「いかなる理由があろうと、グラウンド上で暴力を振るうなどもってのほか」というのがサッカー協会、メディアの統一した見解である。
またチームを率いるドィコビッチ監督も「選手には失望した」と怒りのコメントを出した。(新浪ネット)
さて、この理由について、昨日(8日)のCCTV中国中央テレビのスポーツチャンネルでは、特別番組を編成して、特集していた。解説者らが言うには、
1 U21としては初めての遠征、しかも長期にわたるヨーロッパ遠征で選手たちにストレスがたまっていた
2 サッカー協会の試合編成に対する不満(5,6日に対戦したチェルシー2軍は15,6歳のジュニア年代のチームであった)
3 度重なるラフプレーへの不満
などの理由を挙げていた。
さて、理由を考えるのに、もう少し遡ってみたい。5日のチェルシー2軍との初戦。試合開始3分から、中国の左FWの於海が相手を故意に倒し、交代を余儀なくさせた。また24分には、同じく於海が肘で相手を突いた。すかさず主審が警告を発した。またキャプテンの陳濤も何度かラフプレーを見せ、審判の警告を受けていた。相手は15,6歳のジュニア。そもそも彼らとの試合自体が、代表チームの選手にとっては、あまりいい思いをしなかったのだろう。
この不穏な空気に、より拍車をかけることがあった。この日はスタジアム観客を入れての試合だったが、詰め掛けたのは、当然ほとんどがチェルシーのサポーター。だが、中には中国人も混じっていた。互いに、チーム名と国名を呼び合い「がんばれ」とやっていたときは良かったが、後半に入って、中国人サポーターが徐々に興奮してきたのか、チェルシーサポーターが「チェルシー!」と叫んだあと、それに合わせて「***」と相手を侮辱する言葉を中国人サポーターが叫び始めた。これにより、ピッチ上だけでなく、スタンドも含めて、非常に不穏な空気が漂ったとのことだ。(2月5日付け新華社より)
おまけにこの試合は0-1で敗れた。実力的に格下かどうかはともかく、なんと言っても国家代表チームである。少なくとも「年下」の相手に敗れたものだから、彼らの屈辱も相当なものだったろう。
また問題の7日、クイーンズパークレンジャースとの試合は、互いにラフプレーを連発する荒れた試合となった。それに対する不満が鬱積して・・・というのが、とりあえずは妥当な見方だろう。(新浪ネット)
ただ、3回にわたって、しかも全て異なったチームに対して、乱闘騒ぎを起こすというのは正気の沙汰ではない。
結局、このあと行われる予定だった練習試合はキャンセルされるという結果となった。また記者会見で、五輪チームとして公式に謝罪し、数人の選手を翌日、送り返した。
これらの試合について、U21のドィコビッチ監督は「英サッカーはそもそも激しい当たりが特徴である。我々はそれに対処する方法を(乱闘とは)別の方法で解決しなければならない」と述べている。
さて、この事件に対して、私は「だから中国はだめなんだ」というような立場はとりたくない。私の友人(中国人)はこの件に関して、「彼らの素質(人間性・道徳性など言う意味)の問題だ。彼らは小学校さえまともに出ていないんだから」と語った。「彼らに我々を代表などしてほしくない」とやや興奮気味にだ。確かに彼らは、幼い頃から体育学校に選抜され、そこからサッカーを全てに優先させて生きてきた選手たちだ。だが、これをもって彼らの人間性そのものを否定したくはないし、もちろん「中国人」全体を評価したくはない。
またスポーツとは時として、このような乱闘を生むことも珍しくないはずだ。我々もプロ野球の世界で時折見かけるではないか。これをもって、彼らの人間性を否定することはあるまい。もちろん、暴力は否定されるべきで、競技場で殴り合いをするなどとんでもないことだが、彼らが一球、一投、一打に真剣に勝負していることをそこで実感し、だからこそお金を払って、貴重な時間を割いて彼らの真剣勝負を見たいと感じるのである。だから、乱闘はもちろん悪だが、乱闘をするほど彼らが真剣勝負であるからこそ、スポーツは魅力的である、という論理も成り立つわけである。
だが、今回の事件は、決してそのような「真剣勝負」の場で起きたわけではない。これはあくまでも「親善試合」である。来年に迫ったオリンピックに向けて、欧州サッカーの当たりの強さ、身体能力の高さ、守りの堅実さを実感し、国際経験を少しでも積ませることが今回の目的であったはずだ。だが、この事件によって、今回の遠征は「大ケガ」と「国際的汚名」という結果を得るにすぎないものになってしまった。
たかが親善試合・・という言い方はしたくない。だが、実際にこれは練習試合なのだ。たとえ、相手のラフプレーがあったにせよ、また気に入らない相手だったにせよ、また他に何か要因があったのにせよ、この「練習」の意味を全く無に帰させてしまうような「乱闘騒ぎ」は、何とか自分自身をコントロールして防ぐべきであった。それが国家を背負って戦う「選ばれた」選手の務めであるはずだ。
彼らは15,6の「少年」ではない。二十歳を過ぎたれっきとした「大人」である。サッカーの世界では、これは選手として、ピークに入ろうとする時期であり、試合中において、少なくとも「自分を制する」だけの力は持ち合わせてなければならない。これは世界で勝っていくために必要な「技能」だと考えるがどうだろうか。
今回の事件は、中国サッカー協会も重く受け止め、今後、原因の調査を徹底的に行うとしている。私は、この件については、上記に書いた表面的なこと以外に、もっと根の深いものがあるのではないかと思っているが、とにかく、徹底的に調査をして、「なぜこのようなことがおきたのか」を解明してほしい。中国スポーツを愛するものの一人として、そう願っている。
HISTORICAL ARCHIVE / 2007-02
”恥ずべき醜態?”サッカー中国U21代表が大乱闘 メディア各紙からその真相を探る
過去掲載記事をアーカイブから復元したものです。本文は当時の表記を維持しています。
出典・公開日時・復元状況
- 原掲載先
- スポーツナビ+/スポーツCHINA〜体育中国
- 筆者(原ページ署名)
- asa8043
- 当時の公開日時
- 2007/02/09 19:42(タイムゾーン表示なし)
- 公開日時の根拠
- ページ本文の日付・投稿時刻を確認。タイムゾーン表示なし
- 復元元URL
- http://www.plus-blog.sportsnavi.com:80/asa8043/article/35
- 保存日時(UTC)
- 2007-02-11T18:43:19Z
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