← 歴史的アーカイブ一覧へ2004年サッカー・アジア杯の決勝。日本と中国の一戦となったこの試合は、いわゆる『反日ムード』が最高潮となった大会として、多くの日本人が記憶しているだろう。当時、観客の一人としてスタジアムにいた私は、日本人サポーターに用意された席には座らず、中国人の観客席に座り、彼らの一部始終を見た。会場では、日本のマスコミが報道したこと以上のことが起きていたと思うが、今、そのことに触れるつもりはない。今日のテーマは『ブーイング』。この日、観客席は、中国人観客による大音響のブーイングに包まれた。中国語を学んでいる最中だった私は、ここであらん限りの「罵り言葉」を学んだ。
先日、新華社通信が北京五輪の特別報道として「五輪のスタンドでも“京罵”は出るのか」と題する文章を出した。「京罵」の京は北京。これは北京方言による『罵り言葉』のことである。ただの『罵り』だけではない。とても、ここでは解説できない、かなり下品な性的意味合いを含む言葉によるブーイングを意味する。
北京のサッカーファンは口が悪い。スーパーリーグ(日本のJリーグ)の試合場では、この北京のサッカーファンが口にする「京罵」がある意味、“名物”となっている。だが、これに対して、『文明的な観戦』を呼びかける当局は、様々な措置をとっている。
来年の北京五輪に向けて、中国の観客の観戦マナー向上が大きなテーマとなっている。その中で、改めて、中国サッカーファンの『京罵』について考えさせられる前述の文章は非常に興味深い。そこで、主要部分を編集して、転載してみたい。
(引用開始)
新華社12月26日付け配信 (記者 高鹏・程義峰)
北京五輪を成功裏に開催するには、効率のよい運営、ハイレベルな選手に加えて、高い資質を持つ『観客』が必要だと思う。ここ数年、北京五輪に向けて「マナーを語り 新しい風を吹き込もう」とするキャンペーンを行い、中国人のマナー向上を訴えてきた。しかし、先月、中国スーパーリーグのある試合で、多くの人たちによる『京罵』が起きた。これを聞いて、来年の北京五輪の会場でまた、この『京罵』が起きないかどうか・・・改めて心配になったのだ。
サッカー場での『京罵』の歴史は古い。北京サッカーファン協会の王文氏によると、最初に『京罵』と呼ばれるブーイング行為が起きたのは1996年の北京国安vs上海申花の一戦だったという。当時、会場にいた王氏は『非常に驚いた。観客席に座る全ての人が“京罵”を一斉に始めたのだ。以前は、こんな風景はみたこともなかったのに。』
この悪しき習慣は、いつしか北京だけでなく、他の都市にも伝播していった。去年、ドーハで行われたアジア大会の試合会場でも品の悪いブーイング行為が見られ、中国人の恥となった。これに対し、ここ数年、当局も様々な措置をとってきたが、なかなか功を奏さなかった。
まず「京罵」の“発祥地”ともいえる北京工人体育館(朝倉注:2004年アジア杯決勝の舞台でもある)がある方法を試した。それは、スタンドに係員を配置しておき、「京罵」が起きた瞬間に、会場の大スピーカーから大音響の音楽を鳴らし、ブーイングを抑えてしまう、というものだ。だが、これはうまくいかなかった。なぜなら、音が鳴り始めた瞬間、彼らは、それよりもっと大きな音でブーイングを始めたからだ。
それに対して、警察も腰を上げた。彼らはビデオカメラを観客席に設置して、観客の様子を録画し、試合後の取り締まりの参考とした。今年7月には、「京罵連盟」と名乗る組織を摘発し、解散させた。リーダー格の男に対しては、『大型群集秩序』違反として7日間の拘留と1年間の球場への出入り禁止処分とした。この処分は、中国スポーツ史上初めてのものとなった。なお、この『京罵連盟』解散後、しばらくは、球場内のブーイングが少なくなった。しかし、先月のスーパーリーグではまた“復活”していたのだ。
「首都文明弁公室」の担当者は「“京罵”現象は特にサッカー場でよく見られる。単純な中国人の資質の問題だけではない。これは一種の“不健康な観戦心理”を反映するものだ。」と語る。「試合には勝ち負けがあるのは当然だが、その結果を受け入れ、尊重する姿勢が必要だ。もし、勝つことのみを追求し、負けることを許さないとの心理状態で試合を見るならば、この“京罵”を克服することは難しい」と分析した。
一方、この『京罵』問題について、北京副市長の劉敬民氏は「北京五輪では絶対にこういった問題は生じない。なぜなら、観客の様子は世界の何十億の人たちが見ているのだから。」と自信を持って語る。
今年3月には、中央文明弁公室が「京罵」をやめようという呼びかけをはじめた。その後、警察が先ほどの『映像撮影』による摘発を始めた。だが、「禁止」だけでは、根絶が難しいのも事実だ。
中国人民大学の専門家は「禁止すると共に、“啓蒙”も大切」と語る。「正しい応援のやり方を導く」ことが大切というわけだ。その方法として、北京市サッカーファン協会による“公式”応援団を結成した。彼らは服装を統一し、スローガンを共に叫び、整った応援を行う。そして、『国家斉唱のときの姿勢』、「入退場のときはゴミを拾って」などのマナーを他の観客に“啓蒙”する、というものだ。これにより、『京罵』現象はかなり減少したという。
当局の担当者は今後も、よりよい環境作りのため、引き続き、各応援団に対する啓蒙活動を続け、その数は数万人に達する見込みという。そして、「京罵」が”社会的に恥ずかしいもの”という雰囲気を作り、それをやろうとする人が自己規制するような環境を作り上げたいと考えている。
ただ、その担当者は付け加える。「中国の抱える他のマナー違反と同じく、“京罵”もまた変えていくには長い時間がかかる。我々はただ、彼らに“マナー”を訴えることしか出来ないのだ。」
(引用終わり)
サッカーにおける観戦マナーの問題は、中国だけのものではない。欧州や南米でも、観戦に訪れたサッカーファンの異常な行動が報道されることはよくあるし、サッカーを応援しているときの心理状態は決して普通ではないのだろう。もちろん、それを擁護することもできないし、特に2004年アジア杯のときに起きた『ブーイング』以上の“反日行動”は、現場にいた私も恐怖感を覚えた。これらの行為は、決して許されることはないと思う。
ただ、中国当局も『禁止』より『啓蒙』へ・・・本文中に述べられたこと以外に、多くの手段を用いて、『観戦マナー』の向上に真剣に取り組んでいるのも事実だ。その取り組みは、現地で様々なスポーツイベントに足を運んで、肌で感じるものである。
では、来年の北京五輪で、「京罵」があるのかないのか・・・北京五輪の成功には、市民がいかに関わるか・・が非常に大きなカギとなるのは確かである。
なお、今行われているプレ五輪における観戦マナーについて、スポーツナビ本体にコラムを執筆した。合わせて、ご覧いただきたい。
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/special/beijing/column/200712/at00015776.html
HISTORICAL ARCHIVE / 2007-12
中国サッカーファンの観戦マナー「京罵」を考える・・・
過去掲載記事をアーカイブから復元したものです。本文は当時の表記を維持しています。
出典・公開日時・復元状況
- 原掲載先
- スポーツナビ+/スポーツCHINA〜体育中国
- 筆者(原ページ署名)
- 朝倉浩之
- 当時の公開日時
- 2007/12/27 16:09 GMT+9
- 公開日時の根拠
- dc:dateとページ内日付・投稿時刻を照合一致
- 復元元URL
- http://www.plus-blog.sportsnavi.com:80/asa8043/article/299
- 保存日時(UTC)
- 2007-12-31T06:13:53Z
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